「将来の事業承継」を見据えた2つの方法を比較
建設業を個人事業主として営んでいる方の中には、「今は個人事業で十分だけれど、将来的には子どもや従業員などの後継者に事業を引き継ぎたい」と考えている方も多いのではないでしょうか?特に建設業では、取引先との関係や実績、建設業許可など、長年積み重ねてきた事業上の財産をどのように後継者へ引き継ぐかが重要になります。
では、将来の事業承継を考えた場合、
①個人事業主として建設業許可を取得し、将来法人化して後継者へ承継する
方法と、
②現時点で法人化し、法人として建設業許可を取得しておく
方法では、どちらが有利なのでしょうか。今回は、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、将来の事業承継を見据えた建設業許可の取得方法について解説します。
1.個人で建設業許可を取得して、将来法人化する方法
まず考えられるのが、現在の個人事業を維持しながら建設業許可を取得し、事業が成長した段階や後継者への承継時に法人化する方法です。
メリット
最大のメリットは、現在の事業形態を大きく変えずに建設業許可を取得できることです。法人設立には定款作成や登記など手続きが必要となり、設立後には法人としての税務・会計管理も必要になります。一方で、個人事業主のままであれば、法人設立にかかる手間や費用を抑えながら事業を継続できます。また、現時点では事業規模がそれほど大きくなく、「法人化するタイミングはもう少し先にしたい」という場合にも適しています。そして将来、後継者への承継を行う際には、一定の要件を満たせば、建設業法上の事業譲渡等に伴う建設業許可の承継制度を利用できる場合があります。以前は、「個人の建設業許可を法人へそのまま名義変更する」という考え方はできませんでしたが、現在は一定の手続きを行うことで、事業譲渡等を伴って許可を承継できる制度があります。
デメリット
注意したいのは、「法人化すれば建設業許可も自動的に法人へ移る」というわけではないことです。個人事業主として取得した建設業許可を、法人設立後もそのまま使用できるわけではありません。法人化する際には、事前に承継の可否や必要な認可・届出・法人側の許可要件などを確認しておく必要があります。また、個人事業主としての許可取得時に「経営業務の管理責任者」などの要件を満たしていたとしても、法人化後に同じ体制を維持できるとは限りません。特に、将来の後継者が現在の事業にどの程度関与しているのか、法人化後に誰が経営を担うのかについては、早い段階から検討しておくことが重要です。
2.現時点で法人化して、法人として建設業許可を取得する方法
もう一つの方法が、建設業を法人化したうえで、法人名義で建設業許可を取得する方法です。
メリット
この方法のメリットは、将来の事業承継を法人単位で考えやすくなることです。例えば、株式会社を設立し、その会社で建設業を営む形にしておけば、将来的に後継者へ経営権を移す際には、会社の株式や役員構成などを含めて承継を検討できます。個人事業主本人から後継者へ事業そのものを移す場合と比較すると、法人という「事業の受け皿」が最初から存在するため、長期的な事業承継の計画を立てやすくなります。また、法人化によって、取引先や金融機関などから見た企業としての信用力も高められる可能性があります。特に、将来的の事業規模を拡大したい、公共工事への参入を目指したい、従業員を増やしたいといった場合には、早い段階から法人化を検討する意味があります。
デメリット
一方で、法人化すると、設立費用だけでなく、法人としての会計・税務・社会保険など、個人事業とは異なる管理コストが発生します。そのため、「まだ事業規模が小さい」「法人化する明確なメリットがない」という段階で法人化すると、管理負担が先行してしまう可能性があります。また、法人として建設業許可を取得する場合も、法人として許可要件を満たす必要があります。「会社を作れば建設業許可を取得できる」というものではないため、法人化と建設業許可をセットで計画することが大切です。
3.2つの方法を比較すると、どちらが事業承継に向いている?
両者を簡単に比較すると、次のようになります。
| 比較項目 | 個人で許可→将来法人化 | 現時点で法人化→法人で許可 |
| 初期の負担 | 小さい | 大きい |
| 法人化の費用 | 将来発生 | 早期に発生 |
| 個人事業の継続 | しやすい | 法人へ移行 |
| 将来の事業承継 | 承継手続きの検討が必要 | 法人単位で計画しやすい |
| 後継者への経営移行 | 計画的な準備が必要 | 株式・役員等を含めて設計可能 |
| 事業規模拡大 | 状況に応じて法人化 | 最初から法人として展開 |
| 管理コスト | 比較的低い | 個人より高くなる場合がある |
つまり、「今はできるだけコストを抑えて事業を続けたい」という方は個人事業を継続する方法が向いています。一方、「数年後の事業承継や事業拡大を見据えて、今から会社として事業を育てたい」という方は、早期の法人化を検討する価値があります。
4.建設業の事業承継は「法人化する時期」から逆算することが重要
建設業許可の承継を考える場合、重要なのは「法人化するかどうか」だけではありません。
誰に、いつ、どのような形で事業を引き継ぐのかを早い段階から考えておくことが大切です。例えば、後継者が子どもであれば、現在から建設業務や経営に関わってもらい、将来の経営体制を準備しておく方法があります。また、後継者が従業員の場合には、経営に必要な経験や資格、建設業許可に関係する要件などを早めに確認しておく必要があります。特に、建設業では、許可を維持するために、「人・財産・営業所」などについて一定の要件を満たす必要があります。そのため、「そろそろ息子に任せよう」と思った時点から準備を始めるのではなく、数年後の承継を意識して経営体制を整えることがスムーズな事業承継につながります。
「建設業許可を取得する」だけでなく、「10年後に誰がこの会社を経営しているのか」まで考えて許可取得の方法を選択することが、建設業の事業承継を成功させるポイントです。


-120x68.png)